歴史的アダム(1)[聖書][創世記]

"Four Views on the Historical Adam" という本が2013年に出た。日本語に訳すなら「歴史的アダムに対する4つの見解」といったところか。 この本は一種のシリーズ本のひとつで、4人の異なった立場の人たちが、それぞれ自分の主張を述べ、その後で別の立場で…

聖書信仰とは何か

以前、ある主流派(リベラル派)の牧師が、 「私たちは聖書を信仰しているのでなく、神を信仰しているのだ!」 と、聖書信仰を批判していたことがあった。その時にも答えたことだけれど、少し整理して書いてみようと思う。 まず先の発言の誤解を解いておくと…

ルペルト神父への手紙

以下はファイヤアーベントがルペルト神父宛てに書いた、現代のカトリック教会と科学に関しての書簡。 ルペルト神父殿 先日の木曜日のあなたのお話は、興味深く聞かせていただきました。私は二つの点で驚かされました。その一つは、<教会>が現在、科学の諸…

近代思想と神学−カント

ついでといったら何だけど、本の引用でカントの影響を少し紹介。 以下の考えを近代神学は受け入れ、キリスト教会主流派(リベラル派)ではほぼすべての人が、保守派・福音派を自称する人でさえもたぶん半数−つまりはキリスト者の8割以上?−がこういった考え…

近代思想と神学−デカルト

「ソフィー」のレビューの中で、デカルトについて少し書いたけれど、『方法序説』を読んだことのない人にもわかるように簡単に書いてみる。 デカルトは、はじめにすべてを疑ってみた。昔からの伝統・正しいと信じられてきたことだけでなく、自分が見て聞いて…

今読んでいるもの

今読んでいる本もメモしておく。 前回レビューを書いた『ソフィーの世界』は万人受けするものだと思うし、誰が読んでも面白いと思うけれど、以下に挙げる本は自分の関心分野のものなので、本当に自分のメモとなるだけの価値しかないかも。 『現代科学論の名…

『ソフィーの世界』

このブログの主旨からはずれるのだけれど、本の紹介をメモがわりに残しておく。 。。3,4年前にブックオフで100円で買った『ソフィーの世界』を最近読み始めて昨日ようやく読み終えた。 この本はいってみれば古代ギリシア哲学から現代哲学−ダーウィン・フ…

キリスト教哲学と科学論

偶像ばかりで鬱になるので、別の話題を(すべて繋がっているのだけど)。 稲垣久和という東京基督教大学教授の一つの論文のさらに一部を紹介。この記事のタイトルがその論文のタイトル。 筆者はこれまで、いわゆる「科学と信仰」というテーマで科学知識を所…

人間の現実−偶像礼拝(現代編)1

旧約時代の偶像は、金や石・木で作られた「刻んだ像」「鋳た像」だった。 新約時代の偶像は、「肖像」が刻印されたお金、つまり富だった(その視点でザアカイを読めるか?)。 そして、新旧共通した偶像礼拝の本質は、神を排除し、自分が神となり、自分の心…

人間の現実−偶像礼拝(現代編)序

今日届いた本の寄稿部分に、まさにこのテーマについて書いてあったので、短いが引用する。 聖書は、現実の人間を「神はいない」と主張し(詩篇14・1)、「神を忘れる者(同50・22)と診断しています。その結果はというと、「彼らの思いは地上のことだ…

人間の現実−偶像礼拝(新約編)2

「ですから、地上のからだの諸部分、すなわち、不品行、汚れ、情欲、悪い欲、そしてむさぼりを殺してしまいなさい。このむさぼりが、そのまま偶像礼拝なのです。」(コロサイ3章5節) 前回、新約時代の偶像は「富」「貪欲」のような、目に見えない物としてあ…

人間の現実−偶像礼拝(新約編)1

「だれも、ふたりの主人に仕えることはできません。一方を憎んで他方を愛したり、一方を重んじて他方を軽んじたりするからです。あなたがたは、神にも仕え、また富にも仕えるということは出来ません。」(マタイの福音書6章24節)"No one can serve two mast…

人間の現実−偶像礼拝(旧約編)

「あなたがたは、いつまでどっちつかずによろめいているのか。 もし主が神であれば、それに従い、もし、バアルが神であれば、それに従え。」 (第一列王記18:21) 上記は、預言者エリヤがイスラエルの民に語ったことば。 当時のイスラエルでは、アハブ王と…

リンクなど

最近ネットで検索していると、案外同じようなこと書いてる人いるんだなぁ、というサイトがいくつかあったので、メモとして書いておく。 「キリスト教世界観ネットワーク」 http://cwn.way-nifty.com/cwn/cat5918917/index.html 私もwebのことはよくわからな…

自然と恩恵の二元論と信仰一元論

このブログでは、科学哲学を少し紹介しながら、科学というものが通常信じられているように「中立的で客観的データをもとに、累積して進歩していくもの」でなく、それぞれの時代の思想に影響された、主観的いわば”信仰”だ、ということを示そうとしてきた(そ…

キリスト者の世界観

「神のこと、人間の救いのことについて正統的理解を持っていても、会社のことや子供の教育のこと、男性と女性の地位と役割、性倫理や生命倫理、科学や技術、学問や芸術、などの事がらについては無神論的(実は異教的)学校教育やテレビ・ジャーナリズムなど…

カインの末裔とセツの末裔

『カインの末裔』というのは有島武郎の書いた有名な小説のタイトルになっている。有島武郎は内村鑑三らの影響を受けて、一時信仰を持つが、ほどなく信仰から離れ、最終的には人妻と心中する。 。。カインというのは、アダムとエバの長男。人類初のこどもであ…

創世記1章と2章の構造

前回の記事で、創世記の中に見られる構造(同心円構造の他に細かく言えば、並行法・交差並行法など、多くの修辞技法がある)について書いたが、肝心の1章と2章についての構造関係について簡単に以下に書いてみる。 <1章> A 神が天と地を創造 B 地は何…

有神論的進化論反対の理由

ここで、なぜ有神論的進化論("theistic evolution"進化論を神が導いたという説)を受け入れることが出来ないと考えるのか、以下に理由を上げて整理してみる。 1.聖書の証言に反している。 ・有神論進化論(以下「有進」)の立場では、人は進化した結果な…

創世記1章と2章の矛盾?

”ゲノム”の中でコリンズは、創世記1章と2章が「完全に一致しない二通りの話がある」ので、文字通りではない → 詩的で寓話的な記述である、と考えていた。 このことについて焦点を当てて考えてみる。 「創世記1章と2章には、別々の創造物語が書かれている…

『ゲノムと聖書』批判(4)

なんだか批判ばかりしていて恵まれないので、今回でこの本の検証は最後にしようと思う。 最後は、この本の中で、聖書・特に創世記のはじめの部分についてどう解釈しているか、また、それに対する検証をする。 「創世記は本当は何を語っているのか」というサ…

ゲシュタルト変換

以下は『新しい科学論』の1頁で、「ゲノムと聖書批判(3)」の最後に書いたことに対する参考の一つとして載せておく。 「今のわたくしどもには、屁理屈にしか聞こえないこの理解は、フロギストン理論を共有する共同体の中では充分説得的であり、かつ客観的…

天動説と進化論

聖書を神のことば、神からの啓示と考える私が、「聖書の記述と反するので進化論は受け入れられません」と言うと、それは中世における教会の間違いと同じ間違いを犯している、と言う人がいます。かつての教会が天動説(太陽が地球の周りをまわってる)を支持…

科学者の厚顔

「科学者は厚顔なのだ。彼らは事実が理論に合わないからといって、理論をおいそれとは捨てない。そういう場合彼らは、通常は、新しく救済用の仮説を案出して、理論に合わない事実を単なる一つの変則事例と呼べるようにしてしまった上でそれを説明してしまう…

科学哲学の簡単な紹介

創造論や進化論に関して、どんな問題があるのか、どんな議論がされてきたのか、ある程度知っている人は多いけれど、「科学哲学」についての知識がある人はまだ少ないように思う。 そこで、”ゲノム”批判の合間に、科学哲学の紹介を簡単にしていきたいと思う。…

『ゲノムと聖書』批判(2)

あるとき進化論についてネット上で議論していたとき、私が「進化論が信仰ではないという証拠を出してください」と聞くと、それまでの勢い(進化論擁護の書き込み)がなくなったことを覚えている。 日本人の大半が進化論を当然の事実として受け入れているだろ…

『ゲノムと聖書』批判(3)

「批判(2)」からの続きだけれど、それではこの本の中で繰り返し主張している「進化論が事実である」という証拠はなんだろうか? 私もこれほどの人の書いた最近の本だから、何か真実らしいもの、検証に値することが載せられているかも、という期待と共に興…

『ゲノムと聖書』批判(1)

ヒトゲノム研究所の所長(1993-2008)で、国際ヒトゲノム計画の代表も務めたというフランシス・コリンズの書いた『ゲノムと聖書』(NTT出版、2008)を検証する。 ちなみに中村佐知という、プリンストンを出た心理学博士が訳者のひとりだそう。この人の翻…

自然神学

自然神学、というのは、聖書以外の別の方法で、神について知ることが出来る、という立場の神学。 人は生まれつき持っている良心や理性で、真理を知り、良いことを行うことが出来る立場、と言い換えることも出来ると思う。 宇田進の書いた『総説 現代福音主義…

啓蒙思想の聖書解釈への影響

以下は2年程前に創世記の学びを始める前にまとめたもの。−−−−−−−−− <創世記を読む前に>17世紀後半から、18世紀にかけて、啓蒙思想がヨーロッパで主流となる。 啓蒙思想というのは、暗いところを光で照らす、という意味。 「暗さ」はキリスト教の迷信。奇…